投資リスクを減らす 投資信託・ETF選びの勘所
投資を始める上でのリスクへの向き合い方
資産形成のために投資に興味を持ちつつも、「損失が出たらどうしよう」という不安から一歩を踏み出せずにいる方は少なくありません。これは自然な心理であり、投資には確かに価格変動リスクなどが存在します。しかし、リスクを正しく理解し、適切な対策を講じることで、その影響を抑えながら中長期的な資産形成を目指すことが可能です。
特に、少額からでも始めやすく、分散投資がしやすい投資信託やETF(上場投資信託)は、リスクを管理しながら投資に取り組みたい方にとって有効な選択肢となります。この記事では、投資リスクの種類を理解し、投資信託やETFを活用して賢くリスクを減らすための具体的な選び方について解説します。
投資における主なリスクの種類
投資におけるリスクとは、リターン(収益)が期待通りにならない可能性のことを指します。具体的には、以下のようなリスクがあります。
- 価格変動リスク: 株式や債券などの価格が変動することによって、資産の価値が上下するリスクです。市場全体の動向や個別の企業・資産の状況によって生じます。
- 金利変動リスク: 金利が変動することによって、特に債券などの価値が変動するリスクです。金利が上昇すると、既に発行されている固定利付債の価値は相対的に低下します。
- 為替変動リスク: 外国資産に投資する場合、為替レートが変動することによって、円換算した資産価値が変動するリスクです。例えば、円高が進むと、外貨建て資産の円換算価値は低下します。
- 信用リスク: 投資先の企業や国などの発行体が、元利金の支払いを履行できなくなる(デフォルトする)リスクです。
- 流動性リスク: 換金したいときに、市場に買い手が見つからず、希望する価格で売却できない、あるいは全く売却できないリスクです。
これらのリスクは相互に関連しており、完全に排除することはできません。しかし、リスクの種類と性質を理解することは、適切な対策を講じるための第一歩となります。
リスク低減の基本戦略:分散投資
投資リスクを低減するための最も基本的な戦略の一つが「分散投資」です。「卵を一つのカゴに盛るな」という格言に象徴されるように、投資対象を複数に分散させることで、特定のリスクが資産全体に与える影響を小さくすることができます。
分散投資には、主に以下の3つの視点があります。
- 資産の分散: 株式、債券、不動産(REIT)、コモディティなど、値動きの異なる様々な種類の資産に投資する。
- 地域の分散: 国内だけでなく、先進国、新興国など世界中の国や地域に投資する。
- 時間の分散: 一度にまとまった金額を投資するのではなく、積立投資のように時期を分けて投資する。
投資信託やETFは、これら複数の資産や地域にまとめて投資できるため、効率的に分散投資を行う手段として非常に優れています。
投資信託とETFの基本
投資信託もETFも、多くの投資家から集めた資金を一つにまとめ、運用の専門家が株式や債券などの様々な資産に投資・運用する金融商品です。
- 投資信託: 基準価額で日々売買されます。購入は販売会社(証券会社や銀行)を通して行い、通常は1日1回の基準価額で取引されます。様々なテーマや運用方針の商品があります。
- ETF (上場投資信託): 証券取引所に上場しており、株式と同様に市場価格でリアルタイムに売買されます。特定の株価指数(例: 日経平均株価、S&P 500)や商品指数などに連動するように運用されるものが一般的です。
どちらも少額から始められるものが多く、個別株投資に比べて手軽に分散投資を実現できる点が大きなメリットです。
リスクを抑える投資信託・ETF選びの勘所
リスクを低減しながら投資信託やETFを選ぶ際には、以下のポイントを意識することが重要です。
1. 投資対象(資産・地域)の分散度合いを確認する
特定の資産や地域に偏りすぎている商品は、その資産や地域特有のリスクの影響を大きく受けやすくなります。
- 国内外の分散: 日本国内だけでなく、米国、欧州、新興国など、幅広い地域の株式や債券に分散投資する商品を選びましょう。全世界の株式や先進国の株式・債券にまとめて投資できるインデックスファンドなどが有効です。
- 資産クラスの分散: 株式だけでなく、債券やREITなど、異なる値動きをする資産クラスを組み合わせることで、特定の市場の下落局面に強いポートフォリオを構築できます。バランス型ファンドや、複数の資産クラスに連動するETFなどが選択肢になります。
目論見書や運用報告書で、どのような資産にどのくらいの比率で投資しているかを確認してください。
2. インデックス型ファンドを検討する
インデックス型ファンドは、特定の株価指数や債券指数などの指標(インデックス)に連動するように運用を目指すファンドです。
- 透明性が高い: どのようなインデックスに連動しているかが明確であり、投資対象が分かりやすいです。
- 低コスト: 特定の指数に倣う運用のため、アクティブファンドに比べて運用にかかるコスト(信託報酬)が低い傾向にあります。長期投資においてコストは運用成績に大きく影響するため、低コストであることは重要なメリットです。
- 分散効果が高い: 多くのインデックスは、数百から数千もの銘柄で構成されているため、インデックス型ファンドに投資するだけで自然と幅広い銘柄への分散投資が実現できます。
特定のプロの運用に依拠するアクティブファンドに比べて、インデックス全体の動きに連動するため、予期せぬ運用担当者の判断ミスといったリスクを避けやすい側面もあります。
3. コスト(信託報酬など)を比較する
投資信託やETFには、保有期間中に日々かかる信託報酬などのコストがあります。このコストは運用成績から差し引かれるため、低い方が手元に残るリターンは大きくなります。特に長期投資では、わずかなコスト差が将来の資産額に大きな影響を与える可能性があります。
同種の資産やインデックスに投資するファンドであっても、信託報酬率は異なります。複数のファンドを比較検討する際には、必ずコストも確認しましょう。
4. 運用会社やファンドの情報を確認する
運用会社の信頼性や過去の運用実績(ただし、将来の成果を保証するものではありません)、ファンドの純資産総額(規模が小さすぎると運用に影響が出る可能性も)、資金の流出入状況なども、ファンド選びの参考になります。特にETFの場合は、市場での取引量(流動性)も確認しておくと良いでしょう。
具体的な選び方のステップ
- 投資目標とリスク許容度を考える: 何のために、いつまでに、どれくらいの資産を築きたいのかを考えます。これにより、取れるリスクの度合い(リスク許容度)がおおよそ定まります。
- 投資対象(資産クラス・地域)の配分を決める: リスク許容度に合わせて、株式と債券の比率など、どのような資産にどのくらいの割合で投資するかを大まかに決めます。初心者の場合は、全世界株式や先進国株式のインデックス型ファンドなど、分散が進んだ商品から検討するのも良いでしょう。
- 具体的なファンドを比較検討する: 決定した配分に基づき、条件に合う投資信託やETFを探します。前述の「選び方の勘所」を参考に、投資対象、インデックス、コスト、運用会社などを比較します。
- 少額から積立投資を始める: 最初から大きな金額を投資する必要はありません。まずは月々数千円など、無理のない範囲で積立投資を始めることで、時間分散の効果を得ながら投資に慣れていくことができます。NISAやつみたてNISAなどの非課税制度を活用すると、税制優遇を受けながら効率的に資産形成を進めることができます。
投資における注意点
- 元本保証はありません: 投資信託やETFを含め、投資には元本保証はありません。市場の変動により、投資した金額を下回る可能性があります。
- 手数料や税金: 購入時手数料(今は無料のノーロードファンドが主流)、信託報酬、換金時手数料、運用益にかかる税金などが発生します。これらのコストを理解しておくことが重要です。NISAなどの非課税制度を活用することで、運用益にかかる税金を抑えることができます。
- 短期的な値動きに一喜一憂しない: 投資信託やETFは中長期的な資産形成に適した商品です。日々の価格変動に過度に反応せず、設定した目標に向かって着実に投資を継続する姿勢が大切です。
まとめ
投資リスクは、適切な知識と対策によってコントロール可能なものです。「損失が怖い」という不安は、リスクを理解し、分散投資に優れた投資信託やETFを賢く選ぶことで和らげることができます。
まずは、ご自身の投資目標やリスク許容度を考え、どのような資産・地域に分散投資したいかを検討することから始めましょう。そして、その方針に合った低コストのインデックス型投資信託やETFを比較検討し、少額からでも積立投資を始めてみてください。
情報収集を丁寧に行い、ご自身のペースで着実に資産形成への一歩を踏み出すことが、賢く未来を築くための鍵となります。